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ビットコインについて寄稿

IRC Monthlyに「高騰するビットコイン」について寄稿しました。「10万ドルに上昇した」で始まる寄稿文の掲載誌公開当日に8万ドルを切るというのもビットコインらしいですが。


高騰するビットコイン

京都大学公共政策大学院 教授
株式会社伊予銀行 顧問
岩下 直行


 ビットコイン相場が高騰している。この1年間で相場は4万ドルから10万ドルに上昇した。これは、米国におけるビットコインETF(上場投資信託)の認可とトランプ再選という2つの要因により、巨額の資金が伝統的金融市場からビットコイン市場に流入したことが主因と考えられている。
 ビッドコインETFを経由して伝統的金融市場から暗号資産市場に流入した資金は、2024年合計で370億ドルに達する。その主力となったのが、米国の最大手資産運用会社ブラックロックが組成するIBITというビットコインETFである。米国では、伝統的金融と暗号資産市場の垣根が急速に低くなりつつある。暗号資産全体の流通総額は3.5兆ドル、日本円換算で500兆円を超え、日本のGDPに匹敵する規模に達している。
 日本でも暗号資産投資の拡大が続いている。日本暗号資産交換業協会によれば、2024年11月時点で国内の登録暗号資産交換業者に開設された暗号資産取引口座数は1150万、預託資産総額は4兆円を超えた。これらの口座開設には厳格な本人確認が必要なので、交換業者間の重複を考慮しても、日本国内に数百万人の暗号資産投資家が存在することを意味している。日本では金融機関や大手企業による暗号資産投資は活発ではなく、個人投資家が中心だが、特に若年層の割合が高いのが特徴だ。これは、日本人が円預金のような安定した貯蓄を好み、株式や外国債券などの値動きのある投資を好まないという従来の定説から考えると、驚くべきことだ。
 しかし、暗号資産市場の拡大にもかかわらず、その実体経済への影響は極めて限定的なままだ。たとえば、街中でビットコインやその他の暗号資産が日常的に使われる場面はほぼみられない。その技術的基盤であるブロックチェーンも、暗号資産関連ビジネス以外で活用されている例は、ほぼ皆無である。暗号資産は具体的な経済活動の裏付けがないまま価格だけが変動しているのだ。
 そもそも、ビットコインは中央管理を排除した「新しい金融の形態」として登場した。その目的は、デジタル社会における経済活動でプライバシーを守ることだった。しかし、現実には、通常の電子商取引で匿名性の確保に利用されることはほぼない。むしろ、マネーロンダリングや脱税といった犯罪行為に悪用される例が目立つ。交換業者を狙ったサイバー犯罪も相次ぎ、巨額の被害が報告されている。近年増加しているランサムウェアによる犯罪も、暗号資産という匿名送金の手段があるから発生したものといえる。
 一般の投資家は暗号資産を交換業者に預託して保有しており、犯罪行為とは直接関係ない。しかし、暗号資産が値上がりする現象の根底には、社会の秩序に対する挑戦があることを忘れてはならない。暗号資産の急騰の本質を見極めることが、今後さらに重要になる。

(IRC Monthly 2024.12)


■ 忘備のため、最近1か月のBTC/USDの相場グラフを載せておきます。