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SDGsとデジタル化について寄稿

IRC MonthlyにSDGsとデジタル化について寄稿しました。


SDGsとデジタル化

京都大学公共政策大学院 教授
株式会社伊予銀行 顧問
岩下 直行


SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)に関する啓発活動は、日本国内でも広がりを見せている。メディアで、職場で、学校で、SDGsという言葉を聞かない日がないほどだ。SDGsのシンボルである17色に彩られた円形のバッジを身につける人も増えてきた。

SDGsとは、2015年の国連総会で採択された、持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現するための、2030年を年限とする17の国際目標のことである。日本では、「持続可能」という言葉が強調され、もっぱら環境問題を解決することだと認識する人が多いが、その成立の経緯や17の目標の内容をみれば、そのカバレッジはもっと幅広いものであることがわかる。

SDGsの源流は、1961年にまで遡る。当時、アジアやアフリカで植民地支配を受けていた国々が相次いで独立し、国連に加盟した。その多くが発展途上国であり、先進国との経済格差は大きかった。1961年に米国大統領に就任したジョン・F・ケネディは、国連総会で演説し、発展途上国の開発を先進国が支援する枠組みを提唱した。この提案を受けて発足したのが「国連開発の10年(UNDD)」である。

UNDDは、1970年、80年、90年に更新され、開発支援の枠組みが整備されていった。しかし、支援を受けて経済成長に成功したとしても、国内の社会制度に偏りがあれば、成長の果実は国民に均霑することなく、一部の支配者階級を潤すだけになってしまう。また、世界全体で経済成長が進むと、資源の浪費や環境汚染といった新たな課題が指摘されるようになった。特に、二酸化炭素の排出による地球温暖化問題が深刻化すると、望ましい経済成長とは何かを再考する必要が生じた。

2000年の国連総会では、こうした新たな問題を包摂する形で、千年紀の新たな開発目標として、MDGs(Millennium Development Goals)が採択された。その開発目標が2015年に更に精緻化されたのがSDGsなのである。つまり、SDGsの主眼は、主として発展途上国を経済成長させることにある。だから、「目標①」は貧困の改善、「目標②」は飢餓の撲滅なのだ。ただし、その成長が環境破壊に繋がらないようにするとか、ジェンダー問題や差別を解消しつつ実現することが求められている。

こうした大きな流れの中で考えると、先進国である日本がSDGsに向けて取り組むべき課題は何なのだろうか。第一義的にはODAなどを通じて途上国の成長を支援することが求められる。それに加えて、地球環境問題、特に気象変動や海洋資源に関する世界への責任を果たしていくことが重要だ。そのために必要なのは、産業のデジタル化なのである。

DXとGX(グリーントランスフォーメーション)とは車の両輪、とよく言われる。日本が二酸化炭素排出削減の国際的な公約を達成するのは、現在のような伝統的な製造業中心の産業構造のままではなかなか難しい。米国のGAFAは情報を取り扱う産業であり、資源消費と環境負荷を抑えつつ、経済を活性化させていると評価できる。地球環境問題の解決に繋がる近道は、かつての大量生産、大量消費型の、モノ中心の産業構造から、情報を中心とする新しい産業構造にシフトしていくことこそが大切なのである。

(IRC Monthly 2022.12)