IRC Monthly に NFTとweb3.0について寄稿しました。
NFTとweb3.0の空騒ぎ
京都大学公共政策大学院 教授
株式会社伊予銀行 顧問
岩下 直行
2020-21年の暗号資産高騰期に、NFT(非代替性トークン)という技術がメディアに登場するようになった。NFTとは、イーサリアムなどの暗号資産のブロックチェーンを基盤として作られた「唯一性があり、代替することができないトークン」を意味する。デジタル絵画やゲーム内アイテムに紐づくNFTが高額で取引されている様子がテレビのニュース番組でも頻繁に取り上げられた。続いて、NFTに代表されるブロックチェーン関連の技術体系やビジネスを総称して、「web3.0」という言葉が登場する。その定義や解釈は使う人によって異なるのだが、web3.0という用語は意味が曖昧なまま連呼され、一躍、バズワードとして注目されることとなった。
日本では、NFTを手掛ける一部ベンチャー企業などが、「政府の規制や税制がweb3.0の発展を阻害している」と訴え、政府の対応を求めた。これに政治家が反応し、政策課題としてweb3.0が意識されるようになる。2022年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」に、「web3.0の推進に向けた環境整備の検討を進める」と明記された。これを受けて、各省庁は、web3.0をキーワードとする複数の研究会を立ち上げて検討を開始した。
ところが、web3.0のブームはあっさり失速してしまう。2022年を通じて暗号資産の相場が暴落すると、メジャーなNFTの相場も連動して下落し、取引量もめっきり減った。元々、NFTには法的な裏付けもなく、2021年までの相場高騰の根拠も不明であった。相場が低迷し、値上り益を狙いにくい状況になれば、投資家が離れていくのは仕方ないことだろう。こうした状況に陥ると、省庁の研究会も無駄になってしまう。規制や税制を多少いじったところで、相場が回復するわけではなく、「web3.0を推進する」のは難しいからだ。
web3.0を巡る議論においては、インターネット上で利用できる登記システムとして、ブロックチェーンが登場する。ブロックチェーンは、データが改竄されにくいという意味では、国家が運営する登記所にも匹敵するものだ。そこにデジタルデータを登記して売買できるようにしたことが技術革新だとされている。
現実の登記所は、例えば高額の不動産取引に利用される。しかし、登記所に登記されていれば価値があるというわけではない。原野商法においては、開発の実態がなく、書類だけで分筆された土地の権利書が詐欺的な取引に利用された。登記したものが価値があるか否かは、登記所の仕組みにではなくて、何が登記されているかに依存する。それは、NFTやweb3.0でも同じことである。つまり、ブロックチェーンを使っているからといって、価値があるとは限らないのだ。
今回のNFTとweb3.0を巡る騒動は、一時の空騒ぎで終わりそうだ。とはいえ、今後も曖昧なデジタル用語を掲げ、デジタル原野商法で一攫千金を狙う人々は出てくるだろう。経済成長のための技術革新は大切だけれど、改革を進めるためにも、新しい提案の真贋を見極める目を持っておく必要があるだろう。
(IRC Monthly 2023.3)