2021年6月25日に開催された第46回金融審議会総会・第34回金融分科会合同会合の議事録が公開されていました。ちょっと遅れましたが、いつもどおり、自分の発言のところだけ、備忘録的に転載しておきます。ちなみに、この会合のあと、金融庁の電子メールでの資料配布方法が見直され、PPAPからファイル共有サービスを利用する方式に変更されましたが、パスワードを平文の電子メールで送るところは一緒なので、もう一声頑張って欲しいですね。
○岩下委員
どうもありがとうございます。私からは、資料2-1、「市場制度ワーキング・グループ」の、とりわけ最後のところにあります銀証ファイアーウォール規制の見直しに関連するコメントが1点と、もう少し広い立場からのコメントを1点申し上げたいと思います。
こちらの、今映して頂いております銀証ファイアーウォール規制をそもそも導入したのは、1993年4月施行の金融制度改革関連法によるものだったと記憶しております。そのための議論を1990年前後、1991年ぐらいにやりました際に、私はたまたま金融制度調査会や、当時、証券取引審議会といった金融審議会の前身の審議会があり、そちらの審議の陪席者として会議室の裏でメモ取りをさせて頂いておりました。
今から約30年前ですが、当時の感覚として、銀行と証券との間の相互参入をどう認めるかというふうな議論の中でのこの議論が進んでいたわけですが、その当時思われていた銀行や証券がそれぞれ持っている情報といったようなものの性格と、それから最近の情報といったようなものの性格というのが、かなり変化してきているような感じがいたします。当時は恐らく、顧客情報といえば顧客のリストで営業をかけるかどうかという話だったでしょうし、企業の情報というと、何となく半分インサイダー的な議論がもう当たり前に行われていた記憶がございます。
それに比べると、最近の金融商品取引法であるとか、あるいは様々な金融商品取引法制の変化、あるいは金融慣行の変化に伴って、このファイアーウォール規制の位置づけというものは、私にはかなり変化しているような感じがいたしますし、今回このような形で、この金融ファイアーウォール規制が、上場企業に関して、ある意味で大きく撤廃されることになったということ自体は、競争を促進するという観点からも大変望ましいことだと思います。ただ、従来とは違った意味で情報を活用するという新しい時代の要請に応えるものとして、それは決して銀行や証券が自らの商売をやりやすくするために情報を活用するというよりは、利用者のために、ステークホルダーであるところの発行体企業であるとか、あるいは様々な投資家、そして一般の預金者に至るまで、全ての人々にとって利益をもたらすような形で情報を上手に活用していくということが大事だと思います。
この点、この資料の左下であまり議論になっていませんが、同意取得の場合にデジタル化が可能であるということが明記されたということも非常に大きなポイントだと思います。昔からこの種の議論というのは、やたらと、こういう規制をつくるたびに山のような紙が増えて、山のようにハンコを押さなければいけないという、今の時代とは明らかに逆行する方向に議論が進んできてしまったような気がします。結果として、銀行の取引というのは、やたらと紙とハンコにあふれたものになってきてしまっているわけですが、これを徐々に世の中の求めている方向に変えていく必要があると思います。
現在、菅義偉政権が重要な政策として掲げているデジタル化の推進というものに、銀行・証券も立たなければいけないという観点からすると、これは恐らく、比較的証券については、いわゆるネット証券、あるいは従来のトラディショナルな証券会社も、コロナ禍においてネット取引というものが圧倒的にシェアが高くなったと記憶しておりますので、その意味では、エンドユーザーまで巻き込んだ形でのデジタル化が進んでいるということは喜ばしいことだと思うのですが、翻って銀行はどうかと考えると、今回あまり銀行についての諮問はないわけですが、銀行とエンドユーザー、例えば企業・個人との間の取引のデジタル化というのは、残念ながら非常にゆっくりとしか進んでいません。
例えば、いわゆるフィンテック行政であるとか、あるいは基幹系システムの見直しのようなことについては、金融庁は最近、様々な取組を進めておられますけれども、しかし、例えば一般の中小企業の方々がインターネットバンキングを使っていますかというと、そこのところで、「イエス」の人の比率が非常に少ないので、結果としてデジタル化も進まない。2023年のインボイスへの対応のEDI的な取引をしようと思ってもできないということになってしまいがちで、これは実は、国の中で非常に深刻な問題を招来していると思います。いわゆるデジタル・デバイド問題です。デジタル・デバイドで、先進的な個人や企業というものは十分に銀行や証券会社のサービスを活用できているのに対して、そうでない人たちは非常に取り残されてしまう。これからは、まさにその情報を活用していこうという時代であるがゆえに、その傾向は一層強まるように思います。
こう考えると、例えば、総務省さんが携帯会社さんのオフィスを使って、デジタル化の支援要員として様々なエンドユーザーへのサポートを行うということを進められているようですけれども、たしか今年度で1,700拠点で40万人に対して認証を行うという話がありました。同じようなことを銀行もやっていく必要があるかなというふうに考えている次第です。
それと関連してということで、これからのこの議論、この場で申しますことが適当かどうか分かりませんが、私は立場上、銀行業界、あるいは各個別の金融機関、さらには金融庁さんから様々なメールを頂きます。そのメールのほとんどに添付ファイルがついている場合は、いわゆるPPAPと言われるパスワードを別途送り、それを開封するという方式ですが、委員の皆さんもそれをお使いだと思いますが、煩わしいと考えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。特にスマホで対応できないというのは致命的です。
この問題については、デジタル庁を所管することになる平井大臣も、政府でのPPAPの廃止についての発言をされておりますし、どうも金融庁さんが使っているということが、非常に金融機関がそういうことを使い続ける1つのメルクマールになっているような気がしますので、ここはぜひ「隗より始めよ」で、そうしたデジタル化を明らかに阻害していると思われるような無意味な慣行については、金融庁さんが率先して是正していくことに取り組んで頂くことが必要ではないかと思います。
私からは以上です。