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先進国中銀CBDC報告書への違和感

先進国7中央銀行+BISによるCBDC報告書の第4弾「金融システム安定へのインプリケーション」が公表された。

https://www.bis.org/publ/othp42_fin_stab.pdf.

正直、このシリーズは、「CBDCを発行する」という結論が事前に決まっていて、その正当化のために書かれているように思える。既にクレジットカードや電子マネー、コード決済など、民間主導で様々な電子的小口決済手段が開発され、普及している中で、CBDCを発行する必要があるのか、発行するとしてもどんなビジネスモデルで実現するのか、ということは置き去りにされている。決済システムが抱える問題は各国各様だから、先進国の中央銀行といっても立場は各々異なるが、対Bitcoin、対Libra、対デジタル人民元で、先進国も何かしないといけないと追い立てられているように感じる。

先進国の中央銀行は、金融政策や経済分析については多くの経験を積んでいる。しかし、この種の電子小口決済ビジネスを立ち上げた経験は実はほとんどない。立派な報告書が書かれたからといって、システムがすぐに構築できる訳ではないし、利用者や加盟店、民間金融機関を巻き込んだビジネスモデルを円滑に回していくことができるとは考えにくい。私自身、20年以上前に、似たようなプロジェクトに取り組んで苦労したので、その辺の勘所は分かっているが、もし本気でやろうとすれば、大変なリソースを投入しなければならないだろう。それが本当に必要なのかは、しっかり立ち止まって考えた方がよいだろう。

私が20年以上前にCBDC的なプロジェクトに取り組んだのは、未来永劫、紙の銀行券が続くとは思えなかったからだ。当時はSuicaもPayPayもなかった。電子的な小口決済手段を提供する民間の主体が存在しないのであれば、銀行券の電子版として、中央銀行が取り組むことが正当化できたかもしれない。しかし、今や民間の提供する小口決済手段が数多く存在するようになった。小口決済にとどまるのであれば、決済リスクなどの観点からも、中央銀行が発行しなければならないということはない。そもそも、どの国でも、中央銀行はそんなに商売上手ではないのだから。

こういうレポートが出ると、何故かロンドン辺りからの外電としてニュースになる。元のレポートが相当無理して書かれているのに加え、編訳や要約の仕方、記者の思い込みなどによって、更にデフォルメされて伝わるので、更に違和感の強い記事になっている。

https://www.asahi.com/business/reuters/CRBKBN2GQ1XI.html

いずれ、紙の銀行券はなくなり、電子的な決済手段にとってかわられることは、ずっと前から予言されていた。とはいえ、紙の銀行券を発行していた中央銀行が、当然に電子的な小口決済手段を国民に提供する担い手になると決まっている訳ではない。もし民間のイノベーションに先んじて、銀行券を電子化し、CBDCに変えていくという提案を中央銀行が率先して行い、実践していたならば、中央銀行が担うことに国民的な理解が得られたかもしれない。あるいは、民間企業が提供する電子小口決済手段に深刻な問題があれば、それを解決するために、公的な介入が正当化されるかもしれない。しかし、現状はそのどちらでもない。中央銀行が税金を投入してシステムを構築、運営することが必要であることを説明し、理解が得られなければ、話は前に進まないと思う。