ブログ

Blog

  • ホーム
  • ブログ
  • カードから磁気ストライプが消える未来は来るのか

カードから磁気ストライプが消える未来は来るのか

海外の技術ニュースのサイトに、こんな記事が載っていた。

Theoretical technique to abuse EMV cards detected used in the real world
(ZD-Net, July 31, 2020)

これは、クレジット/デビットカードに使われるEMV方式のICカードの取引データから、同じIDを持つ磁気ストライプカードを作ることができるという調査報告書についての記事だ。そもそも、現在のEMVカードには、磁気ストライプが必ず付いていて、古いPOSターミナルとかでは磁気の方を使う。だから、昔よくあったカード・スキミングをされたら、磁気部分がコピーされてしまうのは当然だ。この問題は、いずれ、すべてのカードとPOSターミナルがIC対応となり、磁気ストライプ部分が使われなくなれば、磁気のないカードに移行することで、長期的に解決しようというのがカード業界のコンセンサスだった。

とはいえ、そういう方向でセキュリティを高めていこうという話になってから、はや20年位経つ。カードがすべてIC化されるとか、磁気のPOSターミナルがなくなるという見通しは、当面は難しそうだ。

そして、量販店のPOSデータが解析され、主にEMVで決済されたデータから磁気ストライプの情報が再現されるという事例が出ているらしい。しかも、そうして作られた偽造カードが使えてしまう銀行と使えない(ちゃんと取引を止める)銀行とが混在している、という報告書になっている。ここで、銀行というのは、日本でいえばクレジットカード会社のことだ。日本だけが特殊で、世界でクレジットカードを発行するのは銀行なのである。

Cyber R&D Labによる報告書 ”It Only Takes a Minute to Clone a Credit Card, Thanks to a 50-Year-Old Problem” より抜粋

こういうのを見ると、20年近く前に日本社会を騒がせた偽造カード事件のことを思い出す。当時も、外部データで磁気データが偽造できる銀行とそうでない銀行のリストが週刊誌に載ったりした。その後、日本ではカードの偽造犯罪への対策が進んだ。1日の引き出し額が制限されて、偽造集団側に旨味がなくなったのだ。ICカード化は日本のキャッシュカードでも道半ばだが、事情は欧米英でも変わらないようだ。

学生時代にアーサー・C・クラークの「2001年宇宙の旅」を観て、その近未来の描写に感動したけれど、同時に主人公がテレビ電話をかける際に、クレジットカードを端末でスワイプするシーンには違和感を覚えた。2001年という年は技術進歩を早く見積もりすぎだが、まあそれは製作当時の未来観を考えれば仕方ない。しかし、地球周回軌道の宇宙ステーションから月への旅行がまるで海外旅行のように容易になった未来において、磁気ストライプカードが生き残っているはずはないと思った。しかし、今の様子では、我々の子孫が宇宙旅行に持っていくクレジットカードにも、多分磁気ストライプがついていることだろう。