もう10年も昔のことになるが、私は2009年5月に日本銀行下関支店長に赴任し、2年間の単身赴任生活を送った。その前は、15年間も研究所勤めをした後だったから、赴任のあいさつ回りで複数の日銀の役員から、仕事の内容が大きく変わることへの心配と労いの言葉を掛けていただいたのを覚えている。
とはいえ、赴任先の下関での生活は楽しかった。歴史好きだったこともあり、地元の歴史や風物を週末に図書館で調べて、それらを素材に講演をしたら、所管する地元経済の話よりもそのほうが評判が良かった。だから当時の日銀下関支店ウェブサイトで公表していた講演資料は、経済の話と歴史の話が半々ずつ載っていた。
下関市は海峡の町、フグの町として全国的にも有名で、中世から現代にいたる、興味深い歴史を持っている。講演してから10年も経つので、経済の話のほうはもう誰も関心がないだろうが、歴史の話のほうはまだ賞味期限が切れていないようだ。本ウェブサイトにも以前から掲載していたが、特に説明もしていなかったので、以下で簡単に紹介しようと思う。
通勤路の愉しみ、下関ロータリークラブ卓話、2009年8月24日
これは国際ロータリークラブの下関のメンバーにしていただいた際、新規入会者恒例の卓話として話したもの。プログラム委員長であった地元銀行頭取から、「お金や経済といった無粋な話ではなく、心が清らかになるような話をしてください」とご注文を受け、徒歩で通勤する途上で毎朝眺めていた地元の歴史的建造物や記念碑、咲いている花や街路樹について紹介した。
金融取引の安全と安心を守るために、経済産業省局長表彰記念講演会、2009年11月6日
経済産業省から情報セキュリティ貢献で表彰を受けた際に、記念講演会を開催していただいたときの講演原稿。この講演会をご提案いただいた地元銀行頭取から、「なぜ表彰されたか分かるように、かつ数式を使わずに説明するように」とのご要望に基づいて執筆した。
山口県の景気情勢について、山口県不動産鑑定士協会・会員研修、2010年1月22日
これは珍しく地元経済ネタ。統計資料に基づいてリーマンショックから立ち直りつつある山口県経済の話をしたところ、聴衆の一人から、「山口県の景気がそんなに良いわけがない」と反論され、ちょっと閉口したのが懐かしい。
下関市の近代建築物の魅力とその歴史 -旧市庁舎第一別館と銀行の建物を中心に、田中絹代ぶんか館開館記念シンポジウム基調講演、2010年2月14日
下関市に残る「分離派建築」の代表的な建造物が修復されて博物館になった開館日に、その建造物の歴史的意義に関するシンポジウムの基調講演を担当した。明治・大正期の建築史に興味があったので、関係者にいろいろ質問をしていたら、講演を依頼されてしまったという経緯であった。
引接寺と李鴻章道について、下関エンジン02、2010年3月22日
市内で開かれた文化イベントで歴史の話をと頼まれて、日清戦争の講和会議が下関で開催された際の清国全権・李鴻章が民間人に銃撃され負傷した事件について紹介した。
下関の歴史と日本銀行 -明治から現代まで、下関夜話会、2010年4月10日
これは定番ネタでよく話していた下関における日銀の歴史。全国にも珍しい、5回も引っ越しをしている日銀の支店の歴史を紹介した。初代支店長・高橋是清から3代後に門司に移転してしまった日銀が、戦後再び下関に戻ってくるという話。
山口県経済と下関の将来、下関三田会、2010年5月7日
地元で開かれた慶応大学のOB会である三田会で、母校の校歌の話や下関の人口減少の背景などについて講演した。
お札になった文化人、田中絹代ぶんか館 夏休み特別企画、2010年7月28日
地元の博物館で開かれたこども向けの講座で、お札の人物の選定基準の変遷について、自分なりの解釈を説明した。こういう話はあまり他ではされないようで、学習雑誌に内容が転載されたりテレビのバラエティ番組で紹介されたりした。
工業県山口を支える工業高校の功績と将来、下関中央工業高校創立百周年記念式典講演、2010年11月25日
山口県は大学進学率が低い代わりに、地元の工業高校から地元の工場に就職する若者が多く、就職率も高いという調査リポートに基づいて、下関中央工業高校の在校生たちにを相手に講演したもの。高校生にもわかるようにゆっくり丁寧に話したが、みんな真面目に聞いてくれた。
国際ロータリークラブ 2710地区G-1 2011年 Intercity Meeting「少子高齢化社会における地域経済と新世代育成」 2011年2月20日 [発言原稿、参考図表]
国際ロータリークラブの西中国地区の集まりで、新世代の若者をどう育成していくかについて、人口減少問題と絡めて問題提起する講演を行った。ロータリークラブにしては硬派なテーマだったが、新世代の育成はどこも頭を悩ませている問題で、思いのほか議論が盛り上がったのを覚えている。