1週間ほど前に、ビットコインが8000ドルから4000ドルに暴落し、暗号資産市場は混乱したが、その混乱は1コイン=1ドルを標榜しているステーブルコインにも波及している。具体的には、3月13日の暴落でビットコインなどの値動きのある暗号資産から退避した資金がステーブルコインに向かい、その相場を押し上げた。これは、暗号資産相場が下落した時にはよく見られる現象で、すぐに1コイン=1ドルに戻るのだが、今回は、その後の相場がちょっと変わった推移をたどっている。
ビットコインなどの一般の暗号資産の価格は、1週間前に下落したまま、ほぼ横ばいで推移している。だから、ステーブルコインも安定しているかというと、過去の暗号資産の相場安定時には見られなかった変調が観察されている。特に、3月17-18日には1コイン=1ドルのステーブルコイン5種(Tether、USD Coin、Paxos Standard、Binance USD、TrueUSD)が、ターゲットを外して下落した。以下に、各ステーブルコインの1週間の相場変動を掲載した。コインによって縦軸の縮尺が異なるが、それを補正すればほぼ同じ動きをしていることが分かる。
今回みられたターゲットからの逸脱は、暗号資産市場が安定している時にはあまり見たことのない外し方で、およそ4-5%の低下であった。1コイン=0.95ドルになったのである。この間、ステーブルコインが急遽増発された訳でもないし、ステーブルコインの信任が落ちるようなニュースが流れたといったこともなかったと思う。
面白いのは、各々の成り立ちや作り方が異なる5種類のステーブルコインが、相互に裁定されているように同じような値動きを示したことだ。暗号資産市場の相場が比較的安定しているのに、こうした動きが現れたのは、当然、コロナショックによる国際的な株価の変動が影響していると考えるのが自然だろう。
今のところ、短期金融市場や一般の銀行預金などの伝統的金融市場と、暗号資産の市場とは分断されていると考えられている。しかし、当然、投資家サイドで両方に関与している者もいるだろう。プライベートエクイティなどのファンドでは、一定比率が暗号資産で運用されているとの噂もよく聞く、
もし、そうした投資家が、暗号資産と株式、原油などの様々なリスク性資産の投資を減らし、キャッシュ化を進めているとすれば、全ての市場に影響が出て当然だ。1週間前の暗号資産市場の暴落も、コロナショックによるものと報道された。
その際、ビットコインなどを手放した投資家は、今の仕組みでは、一旦ステーブルコインを保有することになる。しかし、ステーブルコインに銀行預金ほどの信頼があるわけではないから、一定期間経過後は、それを伝統的な金融の側(一般の預金)に移動させようと考えたのではないか。それが、この17-18日にステーブルコイン市場に立ったさざ波の正体ではないかという仮説を持っている。
残念ながら、暗号資産市場と銀行預金とのの間でどのような資金フローが生じているのかは、信頼できる統計もなく、よく分からない。全体像をつかむのに有用だった coinlib.io/global-crypto-charts は、1週間前から表示されなくなっている。
ステーブルコインの裏側がどうなっているかも、十分に開示されている訳ではない、最大手のTetherについては、過去にも書いてきたように、様々な疑惑が報じられている。その他のステーブルコインも、発行額と見合った法定通貨を保有していると説明することが多いようだが、とはいえ大手暗号資産取引所などの副業として運営されているものだから、ビットコインなどの相場が下落する中で取引所の経営が傾けば、信任を維持することはできないだろう。法的に有効な倒産隔離などの仕組みで投資家を保護しているわけではないからだ。
その意味では、今回立ったさざ波は、今後発生する、より大きな変動の前触れかもしれない。