日経新聞の3月20日の朝刊に、このような社説が載っています。
新型コロナウイルスの感染拡大に備えて、金融機関の業務継続(BCP)が大事だと主張する社説です。でも、私は賛成できません。
もちろん、金融業界は元々BCPに力を入れている業界ですし、決済機能は金融機関がみんな同じように機能してくれる前提で動いていますから、業界全体として機能を維持することが期待されているのは分かります。だから、もしある支店の職員が新型コロナウィルスに感染したことが分かれば、すぐに隔離、消毒して、本部から人を送り込み、支店の機能を維持しようとするでしょう。そのプロ意識は大変なものです。
でも、万一、銀行の支店が臨時休業になったとしても、コンビニに行けばATMがあり、そこでたいていの用は足ります。銀行の基幹情報システムは集中管理されていて、それを動かすのに必要な人員はごく少人数ですし、十分なバックアップも備えていますから、たとえウィルスがアウトブレークしても、情報システムが停止し、ATMや銀行間決済が止まる心配をする必要はありません。現代は、銀行のサービスが、人手ではなくてシステムで提供される時代です。ことさら、銀行職員が感染した時だけ行名や支店名を明かし、「公共性のある銀行は特別な対応をすべき」と主張するメディアは、やや時代錯誤な感じがします。
それを言うなら、例えば人手で搬送する手形や小切手を廃止してしまったらどうでしょう。未だに毎日、全国で手形交換事務を主に人手で実施しているのは、金融業の生産性という観点からも疑問です。現金や通帳のようなモノを利用するから、顧客が支店に集まり、顧客と行員の双方に感染リスクが生じるのであって、ネット取引にすればウィルス感染を気にする必要はありません。実際、ほとんどの銀行取引はスマホで完結できます。
もちろん、融資担当者や得意先係が企業の資金繰りの相談に乗ったりするのはスマホ完結とはいきませんが、個室やブースで個別に相談するものですから、感染リスクは高くはないでしょう。
金融業界はやたらと「公共性」が強調されてきましたが、銀行は別に政府機関でも公的機関でもありません。普通の業界として、普通に社会の機能の一部を、責任をもって果たしていけばいいのだと思います。どんな業界でも、なくなっていい業界なんてありません。逆に、銀行にだけ特別な責任を負わせようとする主張は、説得的でないと思います。