こんなニュースが流れていた。
ビットコイン関連会社が破産へ…負債109億円、債権者2万2千人(読売新聞、2019年11月26日)
またまた暗号資産交換業者がサイバー攻撃でも受けたのかと一瞬緊張したが、破産を申請したのは交換業者(取引所)ではなかった。記事の見出しにもビットコイン「関連」会社と書いてある。
破産を申請したのはビットマスター社。同社のサイトを見る限り、ビットコインのセミナーを開催して会員を募っていたようだが、詳細はセミナーに参加しないと分からないという。ビットコインATMを手掛ける会社だと報道されており、記事には、「会員から数万円の登録料を受け取り、営業活動に応じて報酬をビットコインで支払う仕組みだった」が、「ビットコイン相場が上昇し、(報酬として会員に支払う)ビットコインを調達するのが難しくなった」のだという。
そもそもビットコインATMとは何だろうか。これは、いわばビットコインの自動販売機である。現金を投入してビットコインを購入したり、ビットコインを売却して現金を受け取ったりできる機械だ。ビットコインを銀行預金みたいなものだと考えれば、そこに現金を預入したり引出したりしているように見えるから、ATMと呼ばれるらしい。とはいえ、私も写真でしか見たことはないのだが。
と説明しても、疑問がわいてくるだろう。そもそも、この日本でビットコインATM事業がそんなに大規模に行われていたのだろうか。また、ビットコイン相場の上昇が破産の原因というのも変な話だ。
まずビットコインATMだが、その位置を知らせてくれる便利なサイトがある。coinatmradar.com というサイトによれば、世界中には6000台を超える暗号資産のATMがあるのだそうだ。けれども、現在現在日本にあるビットコインATMは、福岡にある2台だけらしい。
このサイトの情報を信じれば、少なくともビットコインATMの事業がうまくいっていたとは思えない。2万人の債権者の多くは同社の「会員」と考えられ、各々が数万円を継続的に支払ったのだとすれば、100億円の負債総額は会員から集めた資金なのであろう。
詳細は分からないが、こうした実態のないビジネスで高額の配当をうたって出資を募る詐欺的な事件は後を絶たない。大規模な被害につながった安愚楽牧場の和牛オーナー制度などが思い出されるけれど、今回は牛の代わりがビットコインだったようだ。
この会社では、会員を1年間続けるとビットコインが「プレゼント」されるとサイトに書かれている。会員獲得の1年後にはプレゼントのビットコインを用意しなければならないことになる。今回の破産申請は、このプレゼントのビットコインが用意できなくなったから、ということのようだ。同社の発表資料によれば、以下のように説明されている。
破産に至る原因の主たるものとしては、ビットコイン相場が上昇したことにより、会員の皆様よりお預かりしていたものと同数のビットコインの調達が困難になったことが挙げられます。
今年のビットコイン相場は、6月頃をピークに、夏以降は軟調だった。もちろん相場だから随時上下はしていたが、2017年12月に2万ドルを記録したことを考えれば、現在の7千ドル程度の相場が特に「上昇した」とは言えない。ビットコインの相場上昇を破産の原因と説明するのは説得的でない。
また、「会員の皆様よりお預かりしていた」というのは、「1年間継続のプレゼント」だというサイトの説明と矛盾している。会員から日本円で会費を集め、それでビットコインを購入して積み立てているかのように説明していたとのであろう。だとすれば、早晩行き詰まる商法であり、ビットコインの相場は破産とはあまり関係なかったと思われる。
国内外には暗号資産(仮想通貨)を利用した詐欺的商法は他にも色々あるけれど、今回は「ビットコインを渡す」という会員との約束があり、それが果たせなくなったので破産となった。しかし、もしも渡すのがビットコインではなくて自社製のICOトークンであったならば、破産とはならなかっただろう。その場合でも、トークンの価格が下落してしまえば、投資家が損害を被ることは一緒なのである。こちらの商法は破産にも詐欺にもならず、未だに継続しているようだが、そうした商法の被害を何とか減らしていきたいものだと思う。