5月20日に開催された産構審・ 商務流通情報分科会・ 割賦販売小委員会(第20回)の議事録が公開されました。以下に、私の発言部分を転載します。
○岩下委員 どうもありがとうございます。今回示されました中間整理案につきまして、私も全体的な方向性を賛成させていただきます。その上で、これまでの池本先生、二村先生のコメント等も踏まえつつ、若干の考えることを申し上げたいと思います。
先ほどの事務局のご説明の中で、割賦販売法の立法の趣旨であるとか、法の目的上、事業リスクと個人リスクがあるけれども、個人のリスクのほうに着目して議論するのであるというお話がありました。確かに割賦販売法の1条には、その購入者等が受けることになる損害の防止という言葉がかなり強く書かれているかと思います。かたがた、「割賦販売等に係る取引の健全な発展」であるとか「国民経済の発展」といった言葉も書かれているわ けですので、割賦販売法は必ずしも購入者が受けることになる損害の防止のみを目的としたものではないのであろうと私は理解しております。
今回の議論を全体として拝見しておりますと、消費者がこの割賦販売、とりわけリボ、分割の不正な、あるいは不適切な利用、過剰な債務を発生させることによって消費者が不利益をこうむるということについて大きく警戒するというのが今回の議論の主たるターゲットであったように思います。ただ、それは今現実に脅威でしょうか。
例えば宮部みゆきの『火車』という小説があります。この中で、前日弁連会長であった宇都宮健児先生が語ったといわれる部分が、溝口弁護士という登場人物の発言として、現在の消費者信用制度には問題がありますということを縷々語るシーンがあります。このシーンの表現は鬼気迫るものなわけですが、私は中でも気になっていたのは、多重債務に陥ってしまった人が、「私、幸せになりたかっただけなんです」といいながら、なぜか多重債務に陥ってしまい、大変不幸になってしまった。こういうことをなくすべきであるということですね。その小説の中の言葉としてしきりに書かれている。実際、その後さまざまな消費者保護の活動の中でそういうことが実施されてきたということで、改善が大いに図られたと思うのですね。
ところで、既にもう貸金業法は改正されました。さまざまな過剰な与信についての啓発が行われています。かたがた、例えばクレジットカードを使う場合にはくれぐれもリボ払いを使わないようにというような、いわゆる金銭教育というのでしょうか、それも頻繁に行われているようであります。
これらのことを考えると、現時点で、例えばリボ払いにしてしまったから、分割の扱いにしてしまったから、結果として消費者が大きな債務を抱えてしまうという問題に実際に陥っているのだろうかというのは、その上限額が通常のマンスリークリアとは別に低く抑えられているということも含めて、私にはちょっとピンと来ないのですね。
そこの部分について守るのが消費者保護なのか、それとも、もっと全体として、消費者が直面している与信というのは、たくさんの業態、たくさんのところからあります。現に、たしか宇都宮弁護士さんは闇金の対策についても大変努力していらっしゃったと聞いておりますが、そういう規制の対象外になっているような人たちからお金を借りて、結果として悲惨な目に遭っているという話が、これはむしろ警察マターの話だと思いますけれども、現に存在するようであります。
そういう問題があるにもかかわらず、何となく、庭先というとちょっと怒られてしまうかもしれませんけれども、この割販法の対象としている部分において、消費者の多重債務がなくなるようにするためにはどうすればいいか、あるいは、そこに新たな多重債務問題が起きないかどうかということをすごく気にされているのですけれども、10万円以下の少額の取引について、今回、24ページで大変画期的な方向性が私は示されたと思いますけれども、こういう方向で、ある意味での自由化を進めていくことが当然に時代の変化によって必要とされることだと思います。かつては割賦販売法に特化した対策が必要であったかもしれないし、それが有効性をもった時期はあったのだと思いますが、今、具体的にどんな消費者がどのような被害を受けているからどういう保護をするべきであるということを考えるべきではないかと思います。
よく、こういう制度を変更しますと、この制度を変更したことによって多重債務者が増えたとか増えないかチェックするようにということをおっしゃる方がいらっしゃいます。それはいいのですが、他の条件も変わっているので、多重債務者は増えるかもしれません、 減るかもしれません。ただ、この変更によって増えたか減ったかなんていうことはわからないわけですよね。今もし何も変化を加える必要もないのであればいいのですが、今の消費者の実態からみて、具体的にどのように多重債務が発生して、それがどの制度が悪かったからなのかということを立証する責任というのは、規制をすべきと主張する側に私はあるのだと思います。
その意味で、現段階の規制というものは、いわば前例踏襲で、そのまま残っている分はしようがないという形でやや受け入れている部分はあります。他方、例えば欧州のPSD2でありますとか、さまざまな世界的な決済回りのルールの変更というのが行われています。インターネットが変えた大きな変革によって、決済そのものが大きく変わったということだと理解しています。
前回の本委員会の最後に、銀行法ではAPI接続を努力義務化したけれども、割販法では努力義務化していないのだから、クレジットカード業界は必ずしも対応する必要はないのではないかと受け取れるような発言を私は聞きまして、やや耳を疑ったわけですが、少なくともPSD2においては、クレジットカードとその他銀行の取引というのは、欧州では当然どっちも銀行がやっていることですので、差はないわけですよね。
かたがた、日本の国内においても、例えばキャッシュレスに向けての未来投資会議の報告等において何が要請されているかというと、そういうことに対する抜本的な見直しを要請されている。そのレベルでAPI接続が必要だとされているのは、これは実は同じレベルです。銀行に対して必要だとされていたのが日本再興戦略2016だったと思いますけれども、それに対して未来投資戦略の2017でクレジットカードにも必要だとされたわけで、そこの要請のレベルは同じなわけですから、イノベーションをしなくてはいけないということについても、改めてこの場で主張させていただきます。
私からは以上でございます。