4月26日、暗号資産の市場が急落しました。まあ、最近は相場が堅調でしたから、どこかで反落することは自然な流れでしたし、下落幅もそんなに大きくはなかったのですが、 コイン別の動きとステーブルコインへの影響という観点から気になったことを整理しておきます。
まず、流通総額は26日の6時から9時の3時間で、約7%下落しました。
BTCは同じ時間に6%下がってますが、相対的に下げ幅が少なかったのと、戻りも強かったので、BTC Dominanceはやや上昇して55%近くになっていますが、その後は横ばいですね。
ETHはやや下落が激しくて、同じ時間に8%下げています。その後の戻りもやや弱いですが、ここ2か月は相対的に弱かったですから、その流れが続いているのでしょう。
今回の相場下落において特徴的なのは、ステーブルコインの動きです。過去の相場下落局面では、相場下落を察知した投資家が逃避先としてステーブルコインである Tether を購入することが多いため、Tether だけは逆方向に動くことが観察されていました。しかし、今回は同じタイミングで Tether も下げているのです。
ここで注目されるのは、Tether の発行総額の推移です。今回の下落は、Tether の発行が増加し、過去のピークである29億ドルを超え、更に増発しようとしたタイミングで相場が下落しているように見えます。4月26日、それまで $1.01 で安定していた相場が一気に下落し、3時間ほどの間に$0.98 にまで 3%も下落しました。Tether は価格が1ドルで安定していることを売りにする「ステーブルコイン」ですから、3時間で 3%も変動しては、本当は困るのですが。
その後、Tetherは徐々に値を戻し、$0.99 を超えるまで回復しました。普通の金融的な考え方だと、Tether社が負債を増やす過程で価格をペッグする通貨より若干高目に維持することで発行プレミアムを得て、増発期間が終了したので維持する市場操作を止めたら価格が下がったようにも見えます。あるいは、価格が下がったのでそれ以上の発行を止めたのかもしれません。その意味では、 Tether はむしろ今回の下落の原因となっているのかもしれません。
実際には、 Tetherは負債ではないので、市場操作ができなくなれば価格が下落するだけで、額面で返済する義務はありませんから、Tether社は都合のいい立場だといえますね。それでも、Tetherは米ドルに代わる取引手段として交換業者に利用されています。たとえ今回のように短期間で価格が変動することがあっても、なかなか代わるものがないという実態を見越しているのでしょう。
それでは、Tether 以外のステーブルコインはどうだったでしょうか。以前、ステーブルコインの新顔として、Daiが登場しつつあることを紹介しました。このDaiの相場を見ると、今回の下落局面で、やはり大きな下落をみせていますが、その下落は短期間で終了し、相場はすぐに元に戻っています。
Daiの仕組みを考えれば、この現象は理解できます。Daiは、ETHのブロックチェーンを使ったMAKERというコインを基盤として、ETHに裏付けられたステーブルコインとして発行されています。ETHの価格は大きく変動するのですが、マーケットを通じて異なるETHの裏付け価値を持つDaiが新規に発行されたり消却されたりすることにより、1 Daiの裏付けとなるETHが常にほぼ $1.00に維持される仕組みとなっているのです。しかし、ETHが大幅に急騰したり急落すると、この調整が追い付かず、ターゲットから乖離してしまうのです。26日の短期的な下落も、そうした効果であったと考えれられます。実際、ETHの価格は、この1年間だけでも、$800~$90 と、10倍近い変動を経ているのですが、Daiの価格は大体 $1.00 で安定しています。これは、香港の大手交換業者 Bitfinex に預けられたドル資産を裏付けとしていると主張しているTetherとは仕組みが異なるので、価格変動もまた異なってくるのでしょう。
しかし、最近のdiarの記事によれば、Daiがドルペッグを維持するためのコストが高騰し、ペッグを続けるのが難しくなっているとも報じられています。確かに、最近の価格は趨勢的に $1.00 から下方に乖離してきているようで、26日の暴落局面を除いても、価格変動は激しく、Tether 以上に乱高下しています。とはいえ、Tether のように市場攪乱の原因になるとは考えられていないですから、どちらかというと、Daiのようなタイプのステーブルコインが普及したほうが投資家は安心できると思うのですが。