21日の日経新聞に、モビリティ・オープン・ブロックチェーン・イニシアチブ(MOBI)の創設者、クリス・バリンジャー氏へのインタビューが載っていた。
この記事のインタビューの中身は、まあよくある構想で、車載コンピュータをブロックチェーンのノードに見立てて情報共有するとか、渋滞を緩和するような運転をする人に決済用のトークンを与えるとか、色々な話が入り混じっている。個々の構想の実現可能性には疑問符が付くが、これから議論することだろうから、やり方次第ではうまくいくかもしれない。
この記事の電子版には、「IDCジャパンのブロックチェーン市場の世界予測」というグラフが添えられている。これは3月に公表されたIDCによる将来予測によるものだ。
Worldwide spending on blockchain solutions is forecast to be nearly $2.9 billion in 2019, an increase of 88.7% from the $1.5 billion spent in 2018, according to a newly updated Worldwide Semiannual Blockchain Spending Guide from International Data Corporation (IDC). IDC expects blockchain spending to grow at a robust pace over the 2018-2022 forecast period with a five-year compound annual growth rate (CAGR) of 76.0% and total spending of $12.4 billion in 2022.
2022年に124億ドルになるという数字の根拠はよくわからない。関連するIDCのサイトには、利用される分野として、
- Smart contracts
- Blockchain consortiums, including Ethereum, Hyperledger, and R3
- Tokenization and smart contracts
- Deploying blockchain for supply chains and track and trace
- Using distributed ledgers to improve the transfer of value and information
- DLT in trade finance and supply chain financing
- Blockchain as a service (BaaS)
- How regulators and agencies are shaping DLT and smart contract innovation
- Blockchain registries: Tracking ownership and identities
- Innovators: Blockchain and supply chain track and trace solutions
- Innovators: Blockchain and provenance of physical and digital goods
などと書かれているけれど、どの用途もまだ精々PoCの段階だろう。また、仮にこうした分野で利用が進んだとしても、それはツールとしてブロックチェーンが使われるというだけで、各々の市場においてビジネスが成功しなければ、ブロックチェーンの開発コストを賄うことができるかどうかも不明だ。
ブロックチェーンそのものが儲かるものになる保証はない。もちろん、日経のインタビューにあるように、「お金の代わりになる決済用のトークン」がもし普及すれば、それは暗号資産やICOトークンのような意味で、発行体に利益をもたらすかもしれない。しかし、そんなにうまくいくだろうか。暗号資産を巡るドタバタを見ていると、無から有を生み出すような仕組みが仮に働いたとしても、それは一時的なものにすぎないことが分かる。人々は、お金になりそうなものは欲しがるけれど、熱気が冷めれば見向きもしなくなるからだ。そういう用途を期待するのは邪道であるし、危うい賭けだと思う。
それでは、真面目なデータ共有の仕組みとして、ブロックチェーンが役に立つか、というと、それは一概には言えない。多くのPoCやコンセプト提案に対して常に投げかけられる問いは、「それはブロックチェーンでやる必要があるのですか」というものだ。普通の中央サーバー型のシステムでも動くのであれば、無理してブロックチェーンを使う必要はない。データの改竄に強いことや、センターが事故に遭ってもシステムが動き続けることは、他の手段でも実現可能である。一方で、実現するためのコストはかなり高価だ。ビジネスとして成功させるのは容易ではない。
現在の議論は、トークンが高く売れる、という話と、情報共有システムとしての可能性が、ごっちゃになって語られている。ブロックチェーンという流行り言葉に騙されないように、慎重にメリット・デメリットを見極める必要があるだろう。