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マイニング用機器の値下り率の評価

日経新聞のこの記事は、暗号資産のマイニング熱が下がっているために、マイニング用機器の価格が下がっていると報じている。

仮想通貨「採掘」の中古部品 値崩れ ブーム一巡、半導体価格下押しも(日経新聞朝刊、2019/4/14)

この手の話題はこれまでも何度かこのサイトで取り上げてきたが、ようやく一般のニュースにも認識が広がってきたようだ。その意味で、この記事の着眼点は良いのだが、数字の読み方には若干の注意が必要だと思う。 今回の記事で紹介された相場下落の証拠は、主に次の4点だ。

  1. ビデオカード店頭価格(中古品)は、4月中旬時点で3月中旬と比べ500円(4%)ほど値下がりし、ピークだった2017年秋に比べ6割以上安い。
  2. 中古のマイニング用コンピューターのオークション価格をみると、「Antminer」シリーズの3月の平均落札額が1年前のおよそ10分の1に急落した。
  3. マイニング専用コンピューターの売買業者のもとには、「昨年11月以降、中古装置の売却の持ちかけが急増した」。
  4. 半導体メモリーDRAMの指標品は3月の大口向けが1年で3割近く下がった。

これらのうちで、私が重要だと思う証拠は2.と3.だ。どちらも、ビットコインのマイニング装置の新規投資がなくなり、既存の機械が売りに出されている証拠である。

2.の情報では、「Antminer」シリーズ といってもピンキリなのでどこまで数字として信頼できるかは微妙だが、1年で1/10というのは普通の値下りではない。事業を打ち切り、備品を投げ売りする時の状況である。

3.の情報にある通り、時期についても、2018年11月と、ビットコイン相場が半値に下がり、採掘業者の値上がり期待が打ち砕かれた時期と符合する。そもそも、ビットコインのマイニング装置は、ハッシュ関数(SHA-2)を高速計算させることに特化した半導体(ASIC)を中心に製造されたものだから、マイニング以外の用途には全く使えないのだ。1/10の値段で買った人も、それで儲けることはなかなか難しいだろう。

他方、1.と4.は、証拠としてはやや弱い。1.のビデオカードについては、そこに搭載されたGPUは主にビットコイン以外のマイニングに利用されるが、マイニング以外にも、AI、VR、ゲームといった使い道がある。中古品同士を比較するのであれば、そんなに値下がりしていない可能性が高い。実際、1.で示された価格変動は、前月比-4%、1年半前対比で-60%だ。これは、ムーアの法則(18か月で -50%、1か月で -4%)の示す数値とそう変わらない。

4.のDRAMも似たような話であり、長い目で見ればムーアの法則が示す曲線に収まるのが過去の経験則だから、同性能の半導体が前年比で3-5割くらい安くなっても、それは事件ではないと思う。

細かく言うと上記のような読み方のコツはあるけれど、暗号資産の値下がりと採掘難易度の上昇によってマイニングの期待収益率が下がり、新規投資が低迷しているのは事実だと思う。最近の暗号資産の若干の値上がりを受けても、この傾向は大きくは変わらないと思う。