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トークンで不動産を取引することの是非

こういう記事だけ読んで反応するのもどうかと思うが、ちょっと説明が変だと思う。

トークン不動産 マネー動かす 
第1部 ブロックチェーンが変える未来(2)
(日本経済新聞、2019年4月10日朝刊)

これは、不動産を担保にした小口の「トークン(デジタル権利証)」で投資家から33億円を集めたプロジェクトの記事である。この記事では、仕組みが図示されているけれど、トークンと書こうが何と書こうが、この取引によって対象不動産の所有権自体が移転しているとは考えにくい。「不動産の”持ち分”であるトークンを、交換業者を通じていつでも売却できる」とあるが、不動産の所有権やその移転にかかる手続きはとても面倒であり、税金や手数料もかかる。REITや会社型の投資信託とかでは、それを「不動産を所有する仕組み」と「その仕組みへの支配権」みたいな形に分けて証券化するのが普通の手法である。

だから、そうした仕組みを作る人が信頼できる組織(例えば、信託銀行とか)であって、途中で二重の譲渡や中身のない証券だけの売買ではない、ということが確認できることが当然に必要である。また、賃料や売買益の配当は、不動産のテナントから直接トークンの持ち主に払われるかのような図も意味不明であり、テナントはそんな面倒な支払いはしたがらないだろう。結局、収益を管理して配当する組織が必要となるから、そこを経由することになるはずであり、その組織が不正を働けば、トークンは無価値になるかもしれない。

そういえば、以前、素人のサラリーマン投資家がワンルームマンションを投資している際に思いついたこととして、「区分所有のマンション毎に法人を設立し、その法人が不動産を所有して、その株式を売買すれば、不動産の売買にかかる登録免許税や不動産取得税がかからない」というアイデアが紹介されていた。確かに、最近は法人登記手続きも簡略化されているし、それらを維持する費用はかなり安くなった。法人の所有者を変更するだけなら費用は法人登記の代表者変更程度で済むから、不動産登記も不要で、取得税も掛からず、妙案のようにみえる。

しかし、そういう構想が実現しないのは、不動産ではなくて不動産を所有する法人を買い取った場合、その法人が変な借金をしていないか、確認するすべがないからだと思う。不動産を買ったつもりで、関係ない借金まで肩代わりさせられるのではたまらない。そんな形で「不動産を所有する会社を買いませんか」と勧誘しても、買い手を見つけるのは難しいだろう。

不動産で巨額の資金を動かすにあたって重要なのは、関係者が信頼でき、権利がきちんと登記され、権利が確定することである。ブロックチェーンは、そうした信頼の仕組みをほんのちょっと手助けするだけだ。不動産屋が高性能のコンピュータ・システムを入れているだけであり、それで関係者の信用が担保されるわけではないのだ。

「最高性能のコンピュータで管理してますから、このトークンは安全ですよ」という営業マンの説明を、あなたは信用するだろうか。規制や税制を回避して、投資のおいしいところだけを取りたいと思う投資家は、詐欺に遭うリスクが高いので、注意したほうがいいと思う。