現金もカードも使えない中国の「弊害」 (日経新聞、グローバルViews、編集委員 村山宏、 2018/12/24)[有料会員限定]
この記事は、中国におけるキャシュレス社会の到来が様々なメリットをもたらす一方、それを享受できる人々とできない人々の分断も生んでいるという内容だ。確かにそういう問題も生じていることだろう。そこを指摘したい記者の気持ちも分かる。
他方、私が2018年7月に杭州のアント・フィナンシャル本社において説明されて妙に納得したのは、アリペイ自身がデジタル・ディバイド対策を真剣に進めているということだ。
案内役は、目の不自由な人や文字の読み書きができない老人にアリペイの使い方を懇切丁寧に説明している画像を誇らしげに説明していた。その数は600万人に及ぶという。日本のナントカPayの場合は、何億円のポイント還元とかはあっても、そうした金融包摂的な発想は聞いたことがない。
偽札の話もちょっと疑わしい。中国で偽札が横行しているという話は20年くらい前はよく聞いたけれど、10年ほど前にはほぼ終息していたと記憶している。中国の現金流通事情にかなり詳しい人に直接聞いたので、その情報を私は信頼していた。ところが、最近1-2年になって、キャッシュレス化が進んでから急に、「中国は偽札が多い」という情報が増えた。そもそもあまり使われていないのに、偽札が多くなるものだろうか。日本人が、「どうせ偽札が多いからスマホ決済にしたんでしょ」という憶測でそう言っているだけではないか、と疑ってしまう。
もちろん、中国のキャッシュレス化に問題がないとは思わない。特に、短期の外国人旅行者には不便なことこの上ない。とはいえ、日本の銀行口座を中心とする口座振替、給与振込が、来日してすぐの外国人に使えない、という話もあるから、お互い様のような気がする。
より根の深い話として、利用者のプライバシー保護は、今後より深刻な問題になりそうだ。そうした本質に迫る議論であれば論じる価値があると思うけれど、この記事は、読み手である日本人に気に入られるような内容を書こうとしているような印象を受ける。むしろ、この記事の書き手と、自分が現金しか使わないことを嬉々として語る日本の高齢者との間に、通底するものを感じてしまうのだ。「弊害」が全くないとは思わないけれど、本当にどの程度深刻な事態になっているのだろうか。