デジタル社会で一般市民のプライバシーを守るためには匿名性を持ったデジタル・キャッシュが必要だ、という主張は、1983年のDavid Chaumの論文に遡る。学術的には、ビットコインはChaumの流れを汲んで開発されたものだから、それが通貨として使えれば、市民のプライバシー保護に役立つというメリットがある。ただし、同時にマネロンやテロ資金のために使えてしまうというデメリットもある。どちらを優先すべきかは難しい問題だ。同じ構造は、TorによるIPアドレスの秘匿や、漫画村ブロッキング騒動にも存在する。
ビットコインを始めとする暗号資産の問題は、それが投機の対象として利用され、本来、開発者が企図したであろう匿名性を持った通貨の代替物としての機能を果たしていないことにある。一方で、マネロンには広く使われていることを考えると、現時点ではメリットをデメリットが上回っていると評価せざるを得ないだろう。
この辺の事情は米タイム誌に寄稿したHuman Rights Foundation のGladstein 氏も十分認識しているだろう。この寄稿は、ビットコインが本来の使われ方をすることを期待したうえで、そうなった時のメリットを描写していると考えるべき文章だ。
一方、この寄稿を紹介するコインテレグラフの記事の見出しでは、「米タイム誌が力説」と書かれているが、当のタイム誌の記事の末尾には、「この記事は外部からの寄稿であり、その見解はタイム誌のものではない」と明記してある。この辺がもう少しフェアにならないと、暗号資産関連のメディアは信頼を勝ち得ることはできないのではないか。