これまで、ビットコインのマイニングによる電力消費量が地球規模の観点から無視できないものになってきていることには、様々な方面から警鐘が鳴らされてきた。実際、昨年末の大相場から1/3以下に落ちても、ビットコインのマイニングによる消費電力は増え続け、今年の夏頃には、オーストリア一国に匹敵する消費電力に達したと推計されていた。半年前までは、暗号資産の相場が暴落を続ける中で、半導体製造ラインは暗号資産景気に沸き、製造ラインの奪い合いが起きていたとも報じられていた。
マイニングに利用されているのは、ASICなどの専用デバイスが主であり、マイニングに利用する以外に使い道はない。だから、ビットコインの相場が多少下落しても、マイニングをし続けるのが合理的であり、消費電力は容易には落ちないのではないかと危惧されていた。
しかし、どうやらようやくビットコインの価格下落がマイニングの消費電力に影響しだしたようだ。なかなか落ちなかったハッシュレートが11月以降落ち始め、特に足元は顕著に減少している。これには、BCHのマイニングに計算機資源が振り向けられたという事情もあるだろう。とはいえ、一部の採掘業者は一時的にはマイニングから撤退しているようだ。転用できるCPUなどでマイニングしている業者も一定数はいたということだろうか。
このハッシュレートを元に消費電力を試算している digiconomist.net の推計値 `Bitcoin Energy Consumption Index`でも、推計値(実線)自体は急激に下がっている。半導体の出荷量から見た推定下限値(破線)も目に見えて下がっているから、消費電力の増加は止まったと考えてよさそうだ。
同サイトでは、ビットコインだけでなく、イーサリアムのマイニング消費電力の推計も試みているが、これもまた減少している。大げさに言えば、暗号資産のための電力の浪費によって、地球環境問題が深刻化する事態は何とか回避されたと言えるだろう。
ビットコインの相場が20,000ドルから6,500ドルに下がってもマイニングの規模は縮小しなかったのに、それが4,000ドルに下がったら縮小したということは興味深い現象だが、(1)他の用途に振り替え可能な計算機資源が占める比率と、(2)マイニング業者の損益分岐点がどこにあるのかについて、一定の仮定を置けば、説明はできるように思う。もちろん、相場が戻れば再参入もありうるだろうから安心はできないが、暗号資産価格の期待値が下方修正され、将来のマイニング事業の期待収益率が低下すれば、投資が一段と不活発になるシナリオは当然考えられたことだ。
とはいえ、ASICや専用GPUに投資をしてしまった採掘業者は用途を振り替えることはできないはずだから、これで一件落着とはならないかもしれない。現在は減少してイスラエル一国分程度となった電力消費の水準が今後も続くのかもしれないが、それは今後の暗号資産の相場次第だ。このまま価格が下がり続ければ、無用の長物となったマイニング装置を抱える採掘業者の経営が行き詰まるのは目に見えている。そうなる前に、何か新しい動きが生じても不思議ではないが、いったいどんな展開となるのだろうか。(2018.12.4)