日銀下関支店長 岩下直行
3月11日に東北地方を中心に発生した大地震は、未曾有の被害を出し、なおその全体像が確認できない状況にある。被害を受けた方々に、心からお見舞いを申し上げたい。
読者の方々もほとんどがそうであったと思うが、私も地震発生日からテレビにくぎ付けになった。増え続ける死亡者数、絶え間なく続く余震、繰り返される津波の映像、原子力発電所で相次ぐ爆発など、あまりの悲惨な状況に呆然としながら、テレビから流れ続ける報道を食い入るように見ていた。
しかし、ここでしゃがみこんでしまってはいけない。被災者を支え、復興を成し遂げていくために、できる限りのことをしていきたいと思う。山口県のような被災地から遠く離れた地域に居住する立場として、われわれは何をするべきだろうか。
まず第一に、正確な情報を入手し、それに従って慎重に行動することが大切だ。インターネットでは、地震や原発を巡る流言飛語が飛び交っている。いまだかつて経験したことのない事態で、不安なのは分かるが、不確かな伝聞情報を信じ込んだり、拡散させてしまうと、むしろ救助活動の妨げになりかねない。良かれと思って被害地の近くに住む親戚や友人に、不確かな噂話を伝えることは慎みたい。うわさ話につられて、不要不急な防災用品などを買い込むのも避けたい。今それを本当に必要としている人々に届かなくなってしまう恐れがあるからである。
東北地方や関東地方では、電力が不足し、計画停電が予定されている。これは大変なことで、医療機器の停止などによる被害を防止するために、多くの方々が心を砕いている。
東日本を支援するために山口県でも節電に努めるべきだろうか。もちろん、震災があってもなくても、省エネは大切である。しかし、西日本で経済活動を無理に縮小させてまで節電を進めることには意味がない。東日本と西日本とは電気の周波数が異なり、これを変換して東日本に送電するための設備は3か所しかない。既にこの設備を使って西日本から供給可能な最大量を送電しているので、これ以上西日本で節電しても東日本の電力不足の助けにならないのだ。むしろ、きちんと生産活動をして、被災地にモノの形で届ける方が大切だと思う。
テレビで流れていたのはどれも悲劇的な映像だったが、一方で強く感じたのは、被害を受けた東北の人々の力強さと辛抱強さだ。海を長時間漂流して救助された男性。「家も全て流されてしまったけれど、命だけは助かったから」と気丈にふるまう女性。被災者の方々が今後、幸せに生きていけるように支えていくのは、不運を免れたわれわれの義務だと思う。既に様々な被災者支援が始まっているが、ひとりひとりができることをできる限り、地道に協力していくことが大切だと思う。
(2011.3.16日 山口新聞掲載)
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