日銀下関支店長 岩下直行
交点プロジェクトという国際的な活動を御存じだろうか。地図には緯度を表す線(緯線)と経度を示す線(経線)が引かれている。世界各地でこの緯線と経線が交差する「交点」の場所を訪れて写真を撮り、それをインターネットで報告し合うという活動だ。一見他愛もないお遊びだが、実際に交点を訪問した人々の報告を読むとなかなか興味深い。
この活動の目的は、「地球の体系化されたサンプル」を作ることだという。名所旧跡や主要都市を恣意的に選ぶのではなく、たまたま緯線と経線の交点という理由だけで集められた世界各地の写真を見ていると、「地球ってこういう星だったんだ」と妙に納得できる。
緯度と経度という概念は学校の地理で習うけれど、自分の住所を緯度と経度で表示するとどうなるか、ほとんどの人は考えたこともなかっただろう。ところが、緯度と経度を正確に表示するGPS(全地球測位システム)端末が安価に入手できるようになったので、状況が変わった。
1996年2月、GPS端末を手に入れたアメリカ人の青年が、近所に北緯43度、西経72度の交点があることに気づき、その地がどうなっているかを調べてインターネットで公開したのがこのプロジェクトの始まりである。緯線は179本、経線は360本あるから、地球上には交点は6万4442個ある(北極点と南極点を各々一個として加算)。この中から、到達することが可能と思われる交点を1万6340個選び、そこを訪れた人の報告を募集したところ、全世界から写真付きの訪問記が相次いで寄せられ、立派なデータベースが作られた。
日本国内には107個の交点が存在する。ほとんどが山林と海中だが、なかには市街地や田んぼもある。とはいえ、土地の所有者は、そこが注目される地点だとは思ってもいないことだろう。
山口県内にもこの交点が二つ存在する。ひとつは、光市束荷の伊藤博文生家の近くで、北緯34度、東経132度の交点である。標高185メートルの低い山の頂き近く、鬱蒼たる杉林の中だ。以前、道無き道をたどってこの地点に到達した「交点ハンター」の手によって、一本の杉の木に、交点を示す手作りの標識が巻きつけられている。
もうひとつは、下関市長府港町の中国電力下関発電所の近くで、北緯34度、東経131度の交点である。火力発電用に石炭を陸揚げする桟橋から数十メートル離れた海の中にその交点はある。この交点に正確に到達するためには、船でアプローチするしかない。
どちらの交点も、厳密な到達は難しいが、近くに車で行くだけなら比較的容易だ。GPS機能のついた携帯電話をお持ちの方は、交点の近所で緯度と経度を計測してみてはいかがだろうか。
(2011.2.2日 山口新聞掲載)
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