「Agile も DevOps も銀の弾丸なんかじゃない」というエントリー。よく整理されていて参考になるし、書かれていることにもおおむね賛成なのですが、金融機関の巨大ウォーターフォールを経験してきた立場から見ると、そんなに簡単にアジャイルからウォーターフォールに切り替えられるものかな、という辺りはいまいち納得できません。
というか、金融機関の勘定系にみられる非常識なまでに巨大なウォーターフォールって、こういう議論の外側にあるまた別の世界で、本来、するべきでなかったことが無理やりなされてしまった結果、それを維持するのにみんな困ってしまっているということだと思うのです。だからって、今更小分けにして新しい開発技法にチャレンジしてみる訳にもいかず、昔と同じことが延々と繰り返されているのでしょう。
銀行業界も、どっかで今の悪循環に終止符を打って、新しいコンセプトでデジタルバンク化しないと、個別行として生き残るのは大変だろうと思うのですが、なかなか舵が切れません。少しでも余力のある間に、試行錯誤を進めておかないと、将来に禍根を残すと思うのですが。
なお、時々誤解されるのですが、銀行の勘定系システムの作り方は、規制とは一切関係ありません。銀行法や関連法規には、システムの作り方の指定は一切ないからです。FISCの安全対策基準も、セキュリティの部分だけですから、ネットバンクは軽い勘定系でスタートできたのです。外銀の日本支店も、必要最小限のシステムしか持っていません。日本の伝統的な銀行は、規制があったからというよりも、業界内の自主規制とか、古くからの慣習で自縄自縛になっている感じがします。
これまで、金融ITは別の世界にあるという主張が幅をきかせていましたが、ようやく普通のITに学ぼうという姿勢が出てきたように思います。世の中が進化する中で、好んで変化しない立場を取れば、一時的には保守的な顧客の支持は得られるでしょうが、それも時間の問題で、いずれ顧客は他の分野で普通になったITを金融分野でも要求してきます。「銀行は特別」という考え方から離れる必要があるのです。
金融業界にも出羽守(「米国では」「欧州では」と言う人)は多かったですし、海外に学ぶことも、他産業に学ことも大切だと思う人は居ましたが、金融という非貿易財(サービス)では国際競争が働きにくく、金融制度の違いもあって、唯我独尊になってしまったところがありました。国内他産業との関係でも、IT化を最も初期から取り組んできたというプライドが邪魔をしたのかもしれません。それらの点について、本来専門外の分野には謙虚であるべき金融機関が謙虚でなかったのは残念なことだと思います。