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生成AIでトリニティになる

マトリックスという映画のワンシーンで、ヒロインのトリニティがヘリコプターの操縦を迫られる場面がある。操縦経験はないはずなのに、リモートでスキルを脳にインストールしてもらい、一瞬でプロの操縦士になる。あの唐突な転換ぶりが妙にリアルで、印象に残っている。

脳に人工的にプログラムを書き込む、というアイディアはSFの定番だ。もっと古い作品では、『ジョー90』という英国の人形劇がある。サンダーバードの続編シリーズの一つで、少年の脳に専門家の知識やスキルが“脳波”として転送される。訓練なしで、いきなり専門家のように振る舞える少年ヒーロー。面倒な努力をせず、瞬時に何かを身につけたいという願望が、こうした作品を生んだのだろう。

なぜ今これらを思い出すのかというと、最近、自分が「トリニティ化」してきたように感じるからだ。

新しいPCにインストールした動画編集ソフト、エクセルでの数値計算、スマホの設定変更…。以前なら悩んで操作方法を調べ、試行錯誤していたところを、ChatGPTに聞けば済むようになった。アプリの名前やバージョンを正確に伝えると、やりたいことの手順をその場で教えてくれる。場合によっては「この関数を使って、こう組めばできますよ」とVBAのコードまで出してくれる。

最近は、HTMLやCSSの断片を投げ込めば、スマホやタブレットにも対応したレスポンシブデザインの修正案をその場で提案してくれる。以前なら面倒で手をつけなかったような調整が、あっという間に片付いてしまう。自分でも、「なんだ、俺、いきなり何でもできる人になってるじゃないか」とちょっと驚く。

もちろん、これは“本当に自分がスキルを獲得した”というのとは少し違う。どちらかというと、隣に有能なアシスタントがいて、即座にやり方を教えてくれるような感覚だ。それでも、「やったことがない」ことに臆せず取りかかれるという点では、確かに世界の感じ方が変わってきた。

今のところ、こうした使い方をしている人はそれほど多くないかもしれない。でも、生成AIを使いこなせば、誰もがトリニティのようにスキルを“インストール”できる時代に入りつつある。

そうなると、人間に本当に求められるのは、ツールの細かい操作を覚える力ではなく、それをどう使って何を実現するかという構想力や発想力になる。教育のあり方も、そこにシフトしていくはずだ。もちろん、セキュリティや倫理といった新たな課題の重みも増していく。それでも、こうした変化の先にある未来には、どこかワクワクするものがある。