昨日の投稿に対して、「クレカ専門の会社があるのは日本だけなんですね….日本の特殊性って面白いですね」というコメントをいただいた。
実は、これについては面白いとばかりは言っていられない。日本の銀行がクレジット/デビットカードという、リテールのサービスの基盤を持っていないことが、国際的な競争力とか効率的なシステム構築とかに与えた悪影響を考えると、こういう仕組みにしてしまった当時の規制当局の責任は重いと思う。まあ、規制金利下で一定のレントを確保していた銀行自体が、当時それほど本体でクレジットカードをやりたがらなかったという経緯もあるのだけれど。
歴史的経緯としては、そもそもVISAもMasterCardも米国の銀行のクレジットカード部門が起源で、独禁法対策としてブランドが独立した後も、カードの発行(Issuer)も加盟店との取引(Acquirer)も、銀行が担っていた。その制度を日本に持ち込んだのも富士銀行などによる日本ダイナーズクラブカードの発行(1961年)が最初だったので、銀行が本体の業務として、IssuerおよびAcquirerを担うことが、当初は検討されていたようだ。
ところが、クレジットカード取引のうち、リボルビング払いは、割賦販売的な要素もあるので、それまで割賦販売を所掌していた通産省と、大蔵省との間の協議事項となり、結局、銀行が本体で参入することにはならなかった。この、1980年大蔵・通産合意が、世界にほぼ例のない、一国全体で銀行がほぼ関与しないクレジットカード・ビジネスを誕生させたのだ。
その後、J-Debitの失敗、ブランド・デビットの普及の遅延などから、日本の銀行のリテール決済分野への参入は遅々として進まなかった。代わりに、鉄道事業者がSuicaなどの電子マネーを発行し、IT企業がQRコード決済に参入する中で、銀行のリテール決済分野での苦戦は続いている。
1980年当時は、世界の標準と異なるということは、特に問題だとは思われていなかった。しかし、40年を経て、当時の規制当局の判断がもし違っていたら、日本の銀行のビジネスも随分違った姿になっていただろうと思うと、とても残念だ。もし1980年に銀行本体参入を認めていれば、今の日本の銀行がリテール決済からこんなに離れてしまうことはなかったし、様々なイノベーションにもっと積極的に取り組むことができただろう。こういう分野を以前から研究してきた私にとっては、「もしタイムマシンがあったら変えたい過去」の一つである。