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東京都のコロナ陽性率は本当に高いのか

京都大学の山中伸弥先生による「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」に、「東京と大阪の状況ー非常に高い陽性率」というコラムが掲載されています。

そのコラムで山中先生は、厚生労働省による陽性率の都道府県別一覧表( https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000625188.pdf )
を引用し、「東京で約40%、大阪で約20%と高い陽性率となっています」と警鐘を鳴らしておられます。

確かに、これが真の姿であれば、相当に深刻な事態でしょう。

では、この数字はどこから来たものなのか、厚生労働省の資料にある東京都の「陽性3,747人、検査人数9,827人、陽性率38.1%」について検討してみましょう。ここで注目すべきは、脚注番号が打たれており、「※2 東京都の検査実施人数には、医療機関による保険適用での検査人数、チャーター機帰国者、クルーズ船乗客等は含まれていない。」と書いてあることです。

この脚注によれば、陽性率38.1% の分母となる「検査実施人数」からは、幾つかの数字が除かれていることになります。特に重要なのは、「医療機関による保険適用での検査人数」でしょう。医療機関から保険適用で民間検査機関に回ったものは、分母からは除かれているのです。

問題は、これがどのくらい大きいかです。その時に、参考になるのが、東京都情報サイト( https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/ )にある「検査人数」と「検査件数」の統計です。最近までの累積値で、人数が1万人で件数が3万件です。

検査人数には、民間検査が入っていない一方、検査件数には入っています(ただし、1週間ほど計上が遅れる)。また、検査件数は、一人で何度も検査すれば増えますから、その部分はむしろ多すぎることになります。

では、実態はどうなのでしょうか。民間検査が始まったのは3月6日です。検査件数と検査人数の比率をみると、3月6日までは検査件数の7割が検査人数となっています。つまり、保健所だけが検査を行っていた時には、保健所の検査の3割は、退院者などへの複数回の検査のために利用されていたことになります。民間検査はそういう目的では利用されないと考えられるので、検査件数を、保健所を利用した検査人数(a)、その3/7を重複検査(b)、残りの検査件数が民間検査(c)だと考えることにしましょう。このように検査件数を分類したときに、実際にコロナ感染を疑ってPCR検査を受けた人数は、a+cとなるでしょう。

(東京都のコロナ情報サイトの計数をベースに筆者推計)

感染者数(d)に対し、陽性率を保健所の検査人数のみで計算すると、d/aであり、これが厚生労働省の資料の計算式でした。その数字が、「陽性率4割」として山中先生が指摘され、ウェブニュースなどで報道されたものです。しかし、分子の感染者数には民間検査で検知されたものも含んでいますから、これだと分子分母のベースが合わないことになります。

そこで、修正陽性率をd/(a+c)で計算すると、直近で17%と、約半分になります。それでも高いですが、山中教授のお書きになっている米国の20%よりも少なくなります。多分、実態はこちらに近いのではないでしょうか。

(東京都のコロナ情報サイトの計数をベースに筆者推計)

東京都のコロナ情報サイトは、豊富な情報で使いやすいのですが、検査人数と検査件数の統計の定義がよく分かりません。普通に考えると、人数が1万人で件数が3万件ですから、一人平均3回も検査するのか、と思っていたのですが、検査能力の不足が指摘される中、そんな贅沢な使い方はしていないでしょう。やはり、1万と3万の差は民間検査が中心だと考えられます。だとすれば、検査人数を利用して計算した東京の陽性率だけ異様に高いことの理由が説明できます。

本当は、こうした誤解を生む数値を厚生労働省が公表するべきではなかったでしょう。また、ちゃんとした原データを持っているはずの東京都がこうした計算を公表してくれれば、誤解を生まなかったのにと思います。

とはいえ、陽性率が17%だったとしても、それで安心はできません。感染者をしっかり検知するために、もっとPCR検査を充実させるべきであることは、山中先生が指摘される通りです。しかし、感染者の検知数が低下しつつある東京が、ニューヨーク以上の陽性率だということは、統計の計算式が適切でなかったことによる誤解である可能性が高いと思われます。