攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG「個別の11人」に関するNISC文月氏による論考。有名なセリフ「私も童貞でね」とインセル(Involuntary celibate)の共通点は説得力があった。しかし、クゼがYoutuberに似ているというのは、「難民は彼のライブ中継に酔っている」という部分に寄り過ぎているのではないか。Youtubeのようなメディアは、リアルタイムの双方向性はない。クゼの「300万人の難民の電脳とつながり続ける」能力に着目するならば、その直前に書かれている「ずっとTwitterで多勢の人と交信し続ける」という喩えの方がより近いだろう。
私が仕事の中でクゼを連想したのは、ICOの発行体でコミュニティ形成を担当している人の話を聞いた時だ。様々なSNS、媒体で精一杯個別の問い合わせに応答し続けるのだそうだ。「実は、ホワイトペーパーを書く以上の苦労をしているのだ」と彼は主張していた。確かに、自分なら幾ら報酬を貰ってもできないな、と思ったほど、その仕事は大変そうだった。
ICOには、資金調達に成功するものもあれば失敗するものもある。上場に成功したとしても、トークンの価格は上場直後のブームの水準を維持できるものではない。相場が下がれば罵倒され、プロジェクトの実現可能性を難詰される。相場環境の運もあるが、共同幻想を維持して相場を支えるためには、クゼ並みの努力が必要なのだろう。しかし、いずれは幻想は破れ、相場は下落する。「詐欺だ」とそしられることを我慢すれば、その苦行は終わり、発行代り金は自分達のものだ。それでも、頑張ってコミュニティと相場を維持するためにSNS発信を続けているリアル・クゼが、あのトークンの背後に何人いるのだろうか。