私も銀行の古い体質と顧客志向の乏しさについてはかなり具体的に指摘してきたから、こうした特集記事が出ることに若干の責任があるかもしれない。もちろん、銀行を叱咤激励し、次世代の金融の姿を描き、それに向けて改善を求めることは、これからも必要だと思う。
他方で、こうした議論で「もう要らない」と言っている人にも違和感を感じる。その人の財布には、ATMから引き出した現金は入っていないのだろうか。お給料を仮想通貨で受け取っているとでもいうのだろうか。電気代やカード代金の自動引き落としを利用してはいないだろうか。
現代に生きる日本人が経済活動をしようとすれば、必然的に銀行は必要になる。そして多分それは今後も変わらない。レガシーのシステムを引きずっているのも、支店営業を続けているのも、それを顧客が望むからである。顧客が全て、ネットバンキングでいいと言ってくれれば、銀行のコストは大幅に下がるだろうが、実際にネットバンキングを使っているのは預金者の1割程度に過ぎないのだ。
多くの論者が、銀行のレガシーシステムに依存した生活を送りながら、銀行が時代遅れであり、要らないとまで批判するのは、ちょっと変な感じがする。例えて言うと、自分は贅沢に電気を使いながら、電力会社をけなし、地球環境に良いことをしようと語っているような、ある種の偽善の匂いがするのだ。
銀行も変わらなければならないが、それが遅れているのは銀行だけの問題ではない。取引先企業の経理部門は、イノベーシーョンに前向きだろうか。顧客はリテラシーが十分に上がっているだろうか。昨日と同じサービスを期待する人が多いのではないか。
中国やアフリカは、キャッシュレス化するまではまともな銀行サービスにアクセスできない人が大多数だった。欧米も、顧客の対応次第で日本より旧弊なシステムが残存しているところは多い。GAFAは規制の多い金融業になりたがらないだろう。結局、日本でも銀行とその顧客が力を合わせて状況を打開していくしかないのではないか。銀行がなくなっても、あなたは本当に困らないだろうか。